9月3日 日曜日
大リーグ最優秀オルガン奏者、ナンシーファウスト
僕がメジャーリーグにはまっている理由は、もちろんそのプロスポーツとしてのレベルの高さ、プレーの華やかさというのも大きいですが、このアメリカの国技である野球を通して文化や歴史や人々が見えてくるというのもすごく大きいです。球場に足を運ぶだけで、長い歳月の大勢の人たちの夢と熱狂が伝わってくる気がしたりします。
というわけで、今日は大リーガーやプレーの話ではなく、球場のエンターテインメントの話題を一つ(うーん、強引な展開。。。)。たびたび書いているのですが、シカゴにはカブスのリグリーフィールドとソックスのセルユラーフィールドの二つの球場がありまして、前者はツタが絡まりオーロラビジョンがなく点数掲示板を人が手でひっくり返しているような球場であるのに対し、後者のソックスの球場は楽しいオーロラビジョンがあり、花火が上がりオルガンが球場を盛り上げる、そんな球場です。そこで、今日はそのオルガンの話。
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僕がこちらで野球を見るようになってしばらく、リグリーは特に伝統に頑固な球場で、セリュラーフィールドはアメリカのあちこちにある典型的なエンターテインメント重視の球場なんだろうな、と理解していました。概ねこれは間違っていないと思うのですが、一点、ずっと後まで知らなかったのは、セリュラーフィールドのこのオルガン演奏というのは全米メジャーリーグの球場でも特に名物だそうなんです。 そのオルガン奏者の名前は、Nancy Faust。MVPならぬMVO(Most Valuable Organist)なんてファンには親しまれているようですが、この人の何がすごいって、耳で演奏する能力が非常に高いのと、それからすごくウィットに富んでいることでしょう。球場で流される音楽にポップスやロックを盛んに用いるようになったのはこの人が先駆けだそうです。で、試合の展開やファンの雰囲気を即座にとらえて、絶妙のタイミングで気の利いた曲を弾くんですよね。音楽の才能・センスだけでなく、スポーツ観戦やファンの心理をよく心得ていて、頭も良いんだろうな、という感じです。 |
1947年生まれで、1970年にソックスに雇われて以来、今も現役。59歳の今年から、デイゲームだけの登場になったようですが、2005年までは「欠場した試合」が5試合だけと、オルガン版カル・リプケンなんて表現もされるようです。4歳でオルガンを初めて以来、聴いた曲をすぐに弾くことができたそうです。大学を出てから、ずっとソックスのオルガン奏者。(片手間にシカゴ・ブルズとか他のスポーツチームの試合にも働きに行ったこともあるようですが。)メジャーの球場は必ずしもオルガン全盛、というわけではないですが諸球団のオルガン奏者が彼女の元にノートを取りに来たり、いろんな方面で賞を受賞したりしているような有名人なんです。
やっぱりすごいのは、その一瞬一瞬ですごく気の利いた演奏をすることです。バッターボックスの選手にふさわしい雰囲気やタイトルの曲を即座に流したりすると、ファンは喜びますよね。有名な話としては、“Na-Na-Hey-HeyKiss
Him Goodbye.”という1970年頃にはやった歌を敵チームのピッチャーが降板するときに彼女が初めて弾いたんですね。ファンは即座に反応、大喜びして球場は大合唱になったそうです。それ以来、スポーツの試合でこの曲を流す、というのは一つの定番のようになったとか。そんな逸話が沢山あります。
もう一つ、驚きなのは、ほとんどの球場ではオルガン奏者は隔離されたブースか部屋で弾いているのがほとんどらしいのですが、この球場では、ホームプレートの少し後ろの観客席に囲まれたところで彼女がオルガンを演奏していることです。ファンと笑いあったりやりとりしたりが簡単にできる、そんな場所です。誰がそうしたのか知りませんが、ファンとのインタラクションを大切にしている彼女らしい居場所です。これは日本の球場にはないだろうな。 僕が初めてホワイトソックスの試合を観に行ったのは確か2002年頃で、野茂英雄を観に行ったのですが(当時は弱小チームだったので当日でも余裕で良い席が買えました)、カブスのリグリーフィールドとはずいぶん違って、エンターテイニングなノリの良い楽しい球場だな、と感じたのをよく覚えています。花火が上がったり臨場感のあるアナウンスも理由でしょうが、気の利いたオルガン演奏にとても高揚感を覚えました。それでもそのときには、メジャーには楽しいオルガンの演奏する球場も多いのかな、くらいに漠然と感じていただけだったのですが、実は大リーグでも名物のオルガン奏者だった、ってわけですね。 |
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